見上げた空は何色

いろんなことをつらつらと。

ソクラテスにウィンクして街へ飛び出せば。

 三月末の空気は赤を基調としたチェックのスカートをいつもより短めにして走るには少し冷たく感じただろう。

 さくら学院は今年で開校して3年、昨年に卒業した三人をメディアで見ることが多くなってきた。それは大変喜ばしいことであるし、目指せスーパーレディーの言葉通りの活躍である。今年の卒業生は海外アーティストがメインの音楽フェスで2人の後輩と共にその歌声を轟かせた。もう一人の卒業生は中学生ながらもモデルとして成長を遂げつつある。
 

  

ワクワクする旅をしようよ!

 私が中学生のときになにをしていたか、さくら学院の曲を聴きながら思い出そうとするのだが、思い浮かぶのは必死にピンポン球を追いかけていたことだけだった。部活動は卓球部、授かった運動神経は人よりも優れていたために一年の頃から頭角を表していた。とはいうものの、レギュラーなんぞ獲る力はまだなかったため、友達と日々素振り。練習の最後にほんの少しの時間だけピンポン球を打たせてもらえる楽しさは努力することの辛さを簡単に打ち消すものだった。
 まさに一瞬一瞬が永遠のきらめきを放っていた中学時代、ワクワクする旅の始まりであった。しかしその楽しい旅も序盤で座礁しかけた。そう、先輩という大きな存在にぶつかり、縦社会を知ったからである。二つ上の先輩、今でもはっきりとその表情が思い出せるくらい怖い存在であり、これほどまでに頼れる人がいたのかという衝撃を受けた偉大な人たちであった。一つ上の先輩は怖いとは思わなかったが、ベンチで応援していたときに見たその後姿は「憧れ」という言葉しか似合わなかった。
 とにかく先輩という存在はいつでも格好よかったのだ。私に後輩ができた時にそんな格好いい先輩にはなれない、なりたくないと呻いていたら同期の子が「もう遅い、あきらめな!」と目を輝かせて私の手を握る後輩を見ながら肩をたたいてきたのがもう何年も経つのに鮮明に思い出せる出来事のひとつである。
 
 

教えないで世界のゴールを

 中学生の女の子は扱いにくい。小学校高学年から、興味あるものへの探究心やその奥にある知識のかたまりを発掘しようとするパワーに溢れているからだ。
 さくら学院はたくさんの部活動がある。それぞれの特性を見抜いたアミューズの先生方が外枠をつくり、部活に入ったメンバーたちが様々な化学反応を起こして進化をする。その姿を見ていると、この年齢の子にしては珍しく「やらされてます」という表情を見ないのである。父兄を楽しませ、尚且つ自分自身も楽しもうとしているのだ。さくら学院と部活動は切り離せないものではあるが、クッキング部ミニパティ、帰宅部sleepiece、科学部 科学究明機構ロヂカ?、重音部BABYMETAL、テニス部Pastel Windのそれそれにしか目指せない物事や得る経験の違いはあるのだ。
 学校生活で部活動はオマケだ。しかし、パワー溢れる女の子たちを世界のゴールへ導く道をつくるのはそのオマケではないだろうか。とかく中学生の女の子は扱いにくい、オマケに熱中しすぎて本来を忘れることなどよくあることだ、仕方ない。
 
 

あゝさくら学院

 私は体育、国語、社会、理科とまあまあ出来る子だった。今ではその輝きも失ってしまったが、当時も今もあまり好きでなかったのは音楽だった。
 リコーダーを吹いてなんになる、ヘビ使いになる予定もないしといつも友達が吹いているのを眺めていた。しかしそんな私が唯一好きだったのは校歌を歌うことだった。私の中学校の校歌は何十年も前の卒業生である母親ですら覚えているほど、無駄に明るくテンポの良い曲だった。それを歌うことがこの学校の生徒である誇りを想起させるかと問われれば否である。だが楽しかったのだ、こんな楽しい校歌はどこにもないだろうという純粋な気持ちだったのだ、単純すぎる。
 さくら学院に校歌はないが、それに相当する曲はたくさんある。転入生が知らぬ先輩たちが歌っていた曲を歌い継ぐという学校ではごく普通の風景を、流れが早く月日を感じさせないアイドル時代に映すと何故かそんな気持ちを思い出してしまうのである。
 無意識にある学校への誇りを。
 
 

ベリシュビッッしてます!

 さくら学院にハマったのは今年の6月。自分自身でも驚くようなスピードでのめり込んだが、そのきっかけは中元すず香ちゃんと菊地最愛ちゃんの2ショットからだろう。
 7月に発売された2012年度集大成の卒業式ライブDVDをもう何回見たことか。中元すず香ちゃんは広島出身、私も現在広島に住んでいるので勝手に親近感を抱いて見ているのだが、彼女、昨年と顔つきが全く違うのだ。きっとそれは成長という二文字に表されるのだろうがその二文字に凝縮された月日は、息切れするほどにすべてに全力を尽くす姿を見ればわかるし、それが彼女の生き方の指針になったのだともわかる。
 負けず嫌いの努力家が咲かせたさくらは先代とはまた違う、鮮やかな色だっただろう。
  
 

少女たちが夢に向かって旗を振る

 旗というものはものすごく重い。高校の体育祭のとき、全国大会に出た記念だと先生に言われ、安易な気持ちで旗持ちの役目を任された。身長がそこまで高くない私が2m前後の旗をもつのはあまりに無謀なことだし、実際かなりこけてその度に先生を恨んだのも覚えている。しかし学科名が書かれたその白い旗を己の非力さで地に落とす訳にもいかず。意地と根性で、重さに震える腕をなんとかカバーしたのであった。
 さくら学院の可愛らしいピンクの小さな旗は全然重くないし、どこかにぶつけたら折れてしまいそうなくらいのものである。この旗、どことなく彼女たちに似ていると感じた。まだ小さく軽い個性的な旗は振る大人の力加減でポキンとあっけなく折れてしまいそうなところ。現実は旗とは違い、自我があるものの、周囲の力はそれすらもなぎ倒すくらいには強いだろう。
 しかし彼女たちはこう歌う。*1
輝く希望の嵐 強い絆で キラメキ放ち 最高の未来目指そうよ

 広島ゆかりの三本の矢の話ではないが、仲間というたくさんの旗と共にあれば折れることもなく夢に向かうことができるのだろう。

 

 

大人に近づくはじめの一歩

 高校生になってからも結局部活動に打ち込み、クラス替えもなかった三年間は本当に楽しかった。遅刻しそうになったときには窓際の席だからと窓から飛び込んでギリギリセーフだと言い張ったときもあった。

 さくら学院を昨年卒業した三人はそれぞれ華々しく活躍している。整いすぎた顔にクールな表情をいつも浮かべていた三吉彩花はCMでも見かけるようになり、某レンタルビデオ店でとある映画のジャケットに写っていた彼女を見て「おーみよっちゃんだ!」と嬉しくなった。訛りつつも穏やかな笑顔が印象的な松井愛莉はモデルとしてはもちろん、とあるドラマで準ヒロインをつとめるなど父兄をいろいろ驚かせている。小さい体に熱い気持ちをたぎらせていた武藤彩未は一年四ヶ月という長い時を経て、自分の理想像のアイドルになり、ファンの前に戻ってきた。

 彼女たちは今年17歳。16歳とも18歳とも違う空気に包まれた彼女たちから目を離すことなど出来るわけがない。

 

 

旅立ちという名の衝動の向こうへ

 卒業というものは小学校、中学校、高校、大学とあるが人生でたったの4回、あるいは3回しかない特別なものである。

 普遍的な日常をがらっと変え、「別れ」による懐古の念と寂しさを生み出す卒業式の力はどの行事よりも凄まじいものだ。しかし私の卒業式の記憶を探しても「ばいばい」というよりも「またなー」という言葉を言っている自分ばかりであった。また明日会えるんだろう、会いたいなという寂しい希望を持った「またね」だったのではと思う。

 アイドルの卒業はだいたい突然の発表ばかりだ。それによる喪失感は計り知れない。

 しかしさくら学院にある卒業は目に見えているものであり、そのタイムリミットを迎えるまでに自分たちがどれだけ頑張れるか、完全燃焼出来るかという挑戦なのである。ここがゴールではなく、ただの過程の一つとはいえ、まだ中学生。送り出すときに顔を涙でぐちゃぐちゃにし、送り出す先輩のためにこんなにも泣けて嬉しい*2という言葉が出てくるのも純粋がゆえのことだからだろう。

 今年は4人が旅立ちという名の衝動の向こうにある夢に向かっている。タイムリミットはあと半年。

 自分の卒業式よりも泣いてしまいそうになるのが見えている(笑)


さくら学院『夢に向かって』 - YouTube

*1:彼女達のデビュー曲であり原点ともいえる大切な曲「夢に向かって」

*2:2012年度卒業式ライブDVDのアンコール終わり、在学生のメッセージで杉崎寧々が発した